その場凌ぎのDRAM産業保護

韓国ハイニックス製半導体の相殺関税、大幅引き下げ 9.1%に

 財務省経済産業省は22日、韓国のハイニックス社製の半導体に課している27.2%の相殺関税を9.1%に引き下げると決めた。昨年受けた世界貿易機関WTO)の是正勧告に沿ったもの。
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審議の結果WTOは日本に対し、補助金措置が終わってから相殺関税を課したのでは遅いと勧告した。これを受け政府は、補助金終了前に発動した9.1%の相殺関税だけを残すことにした。

 ニュースを見て、これはいいパラドックスだなーと思ったのがファーストインプレッション.
 韓国政府が自国産業の支援のために補助金を出して安く作れるようになったことに対して、日本政府が自国産業支援のために関税を掛けて安く買わせないようにした、と.


 2-3年前のiPod nano/shuffle需要によって、韓国半導体勢はこぞってDRAMからNAND flashに生産ラインを変更した.その中でHynixは元々DRAMに強い企業だったにもかかわらず、NANDにラインを換えた.その結果大変なNAND flashの価格下落に直面し、NANDの利益率低下は凄まじいものがあった.その当時の記録によれば、DRAMは12インチファブがメイン、NANDは8インチファブがメインであったため、一度8インチに変えてしまうと 12インチに戻すのはコスト競争力が低く、DRAMに戻すことは簡単に出来なかったはずで、経営判断の失敗に陥ったようである.
 一方、その時期 日本の半導体メーカーは NAND flash需要に乗り切れなかったため、当初こそ利益率は低く憂き目を見たわけだが、長期的に見るとDRAMメーカーが少なくなり 韓国企業のシェアが低下し、価格が上昇していった.確かその頃に「やはり日本はDRAMだ」的なアホな議論が巻き起こっていたのが思い出される.そう日本政府はここぞとばかり祭り上げたのだ.


 しかし、「補助金措置が終わってから相殺関税を課したのでは遅いと勧告した」ってのが情けない.
 何が情けないって、実際にはきっと日本企業が相殺関税を引き上げたのは 価格下落が生じた時期にそれほど遅れたわけでは無いと思うのだ.しかし半導体産業はまさに設備産業であり、瞬間瞬間の投資が価格にヒットしているわけではない.また、この分野は動く額が大きいだけに 裾野、バリューチェーンの川上である「材料」や「製造装置」の需給状況で どのくらい市場が変化するかは、本当に予想しやすい分野なのだ.そういう意味で、「補助金措置が終わってから相殺関税を課したのでは遅いと勧告した」なんて情けなくてしょうがない.あれだけ規模の利益でNANDの勢いを持った韓国勢が、DRAMでシェアを奪えなかったとき、価格を下げてバタくなんて 予想できる数種類のストーリーの中の一つでしかない.
 対応も遅いというだけでなく、頭も使わずに 単に目先の保護としてパッチを与えたように見える日本の対応は、実に情けない.半導体産業に梃入れするなら、生半可な市場把握力・予測分析力でやってもバカを見るだけなのである.
 何故にここ数年の日本の対応は、どの分野についても これほどまでも浅はかなものが多いのか?


# なんだかDRAMの市場情報に調査・触れていたのは1年以上前であることに気が付いた.