松下 世界最大PDP工場

松下が 世界最大のプラズマディスプレイパネル工場を建設すると発表した.

松下電器産業 ニュースリリース 2007年1月10日:PDP国内第5工場を兵庫県尼崎市に建設
松下、海外強化で売上高10兆円めざす・新3カ年計画 日経新聞

このニュースで気になる点は、

  1. それほど生産能力を上げても問題ないほど、テレビの買換え需要は大きいのか?
  2. それとも家庭用テレビ以外のマーケット開拓が目的なのか?
  3. 日本に工場を持つ理由は何か?

以上3つ.


1.買換え需要と生産能力拡大

月産100万台(42型換算)

世界的な放送のデジタル化を背景に、薄型テレビの需要は急速に拡大しており、2010年にはテレビの世界総需要、約2億台のうちの65%が薄型テレビになると予測しています(松下推定)。

この工場だけでも、年間1000万台以上生産可能なわけである.第4工場までの生産能力は08年で1110万台とのことなので、松下だけでも(2010年の2億台のうち65%は1億3000万台)年間需要の15%以上を生産できることになる.
数々の証券情報でFPD市場の状況と市場予測を見る限り、「現状のLCDPDPとの比率を変える」か、「PDP市場を松下が独占してしまう」しかありえない数字である.
そもそもテレビという商品は、他のモバイル機器に比較すれば買換え周期は長いはずであり、これほど大規模な設備の稼働率を上げたまま 継続的に伸びるための追い風が見込める分野だとは思えない.



2.家庭用テレビ以外のマーケット開拓

となると、この松下が生産するPDPが家庭用テレビがターゲットなだけだとは考えにくい.松下自身も、

民生用テレビだけでなく、商業用/教育/医療など多目的な表示ディスプレイとしてのビジネス用途も急速に拡大しています。

と書いているように、PDPのマーケットは 例えば今の広告電光掲示板をPDPで代替するなどといったように、家庭用ではないと見た方が正しそうである.


PDPのメリットとしてよくLCDと比較されるのはやはり、そのパネルの製造コストの違いである.LCDのように各種フィルムを必要としないだけに、加工だけでなく部品調達も楽であるのはよく解かる.しかし、LCDよりも高い電圧を必要とする構造のため、パネル工場を持つというのは パネルだけの外販という可能性も大いに有りえるだろう.
PDP特性として大型化しやすいこともあり、パネル特化だとすれば面白い.逆に言えば、松下社内でセット全体を開発する分には 高電圧を効率的に設計しなくてはならない回路思想・能力を持つ機会に恵まれるはずであり、知的技術を溜め込む点としては有利に働くかもしれない.効率的部分の大量生産と知的技術の蓄積となると、面白いバランスだ.



3.日本に工場を持つ理由は何か?

最後の疑問としては、国内に工場を新たに建てる理由である.人件費の高さのためにBRICsなどに工場を持っていくというのが大きく取り上げられたのは、昨年までの流行だったが、本質的にそれが正しいか正しくないかは別として、何らかの理由が合ってのことだろうと推測する.例えば、キヤノンはリードタイム短縮と高付加価値技術のブラックボックス化のために デジタルカメラ工場を日本に回帰させている.ただしこの企業はその目的のため、デジタルカメラは「基本的に国内市場向けのものを国内工場で生産する」こと、「高付加価値モデル(デジタル一眼レフ)は国内工場で生産する」ということを徹底させている.
しかしそう考えると松下の

成長が続く海外で薄型テレビなど戦略商品を投入し

は、説明がつかなくなる.松下のPDP工場は海外には中国にあるだけのようで他は全て国内である.松下自身、海外に対するリードタイムのために国内に工場を建設しているとはいえないのだろう.例えば、松下はノートPCの製造も徹底して国内工場であることを売りにしている.確か、そのサポート対応のためにも国内に持っていると言うような記述を見たことがあるのだが、PCの場合 松下のPC購入者の多くがB2Bの国内企業ビジネス向け取引、タフノートのような軍事・産業用であったこともあり、その理由は理解できる.しかし今回のPDPに関しては、そのメリットを理由にするのでは腑に落ちない.



これからの松下のPDP戦略では、「テレビ以外の用途へのPDP」と、「国内工場の海外対応」を注目して見ておこう.