炎上じゃなくて、話したかったビジネス観点のこと


今回は、本来議論したかった内容について書くことにする.

この炎上問題については、私は間接的?な関わりになっているのと、こちらから見た主張については多くの人たちによって書かれているのでいいとして、(この内容は、もう2週間程前に書き溜めたものだが)一回まとめとかんと、今日本当に書きたいと思っている別のネタのエントリーが出来んので.

Introduction

そもそものきっかけの「一方的な批判」という話.

「なんで潰したと思うか」について.
私も あの頃のパーソナルオーディオ部隊が、日々 どこどこの工場を閉鎖するだとか、組織変更(多組織へ併合・組み入れで中間管理職がぎゅうぎゅうになっていく様子など)で、大きな部隊がみるみるしぼんで行ったことを覚えている.その一方、外に打ち出すプロダクトが、外見良くても、よくよく聞くと歩留まり率がハチャメチャなままでgoサインかけていたり、商品化の更に下のレイヤーでの技術的仕込ばかりに開発費を投入しているのを見て、「え?」って思うことがたくさんあったことも覚えている.
もう取り返しのつかないところに来ていたかもしれないものの、あれはやっぱり、経営者の責任だと思う.


「何があったかは、全て本の中で清算した」とのこと.

ここから書く内容は、辻野氏の本を読み終えた上での話です.彼の本が出た時に本屋でザッと見た感じ、人生ストーリーとしては面白いかもしれないけれど、ビジネス面での戦略考察のある本だとは思わなかったので購入していませんでした.ですが、私もちゃんと読んで、考察します.米国滞在中に読めるようにkindleでも買いましたし、日本には紙版も注文しました.(こうやって、本の売上を伸ばす炎上ステマだったらどうしよう...)


組織論の面から

tks900さんの書評でも言及されていたが、用意されるはずだった組織(子会社独立含む)を、うやむやにされたまま事業をスタートする時点でかなり厳しいものだったと思う.とは言え、あの大組織の中での長であり、敵対?する旧Walkman部隊を横にしての立ち上げは、きっとそれを上に訴えている暇もないくらい 組織作りに奔走していたことだろう.

本来は、新組織化にGoサインを出した辻野さんの上司こそが、組織化だけは厳守して実行すべきことだが、言っちゃ悪いがあの企業の役員クラスは その多くがやはりサラリーマンの上長気分のままで上に登っている人も多いはずなので、その「最低限守るべき経営者としてのライン」ってものを意識していない人は多いように思う.
経営者が最低限やることは、事業の舵取りではなく「環境整備」であることを もう少し認識する人が居てもいい気がした.第一人者としてリードしていくためには、第三者的な視点であり、第三者として支える側に回る黒子でしかないことを肝に命じていないと、トラブルが起こった時に慌てるだけになってしまう.これは私が12年前に失敗しつつ学んだ大きな鍵だ.

ビジネス戦略面から(1)

とは言え、ビジネス戦略面からの物足りないことは間違いない.辻野さんの言う「ハードとコンテンツ」を融合させることは、Appleが成功したモデルであって、既にやって当たり前・やらなきゃ死ぬという前提条件になっていたものの それを追いかけただけでは勝てないのは間違いない.どんなに資産があってもその戦略については、もはやフォロワーだったのだから.

で、差別化要因をどこに置くべきであったか、というと、美しい筐体か?という話.石けん箱より、香水瓶の方が人気があったように思うが、前述のように歩留まり等 大量に売りさばくためにはかなりの不安要素があったように思う.経営者としてはここのバランス感覚が必要で、AppleiPodの素晴らしさは 変わらない形状を続けることによる、生産効率の向上であったと思う.初期世代の特徴的な「ホイールUI」を止めてですら、生産効率を高めていくあの姿勢に対して、なぜあのコロコロ変わる筐体を 戦略的に据えられたのかは謎だ.

美的であることを売りにするならば、それだけに死ぬ気で投資を賭けるべき話なのだ.それを売りにするならば.
美的なことに惹かれて買う人が、増えれば増えるほど自分たちが得をする仕組みで売り出さなきゃいけない.綺麗なものを売りにするなら、そこにそれなりのコストは掛かる.売れれば売れるほど、そこに過剰な負担が起きるモデルは作ってはいけない.例えば、良いデザイナーのお陰で綺麗な筐体が出来るならば、初期だけお金は掛かるが 売れれば売れるほど得する作り方をするべき(単価を上げておくとか、更にコスメティックなアクセサリーを買わざる得ない仕組みにしておくとか、筐体以外の部分でのコストをムチャクチャ抑えるとか).とにかく、追いつくべきところと、絶対に優位を持つべきところの戦略は気になった.


ただ、美的なところを売りにして良かったのか?というのは、そもそもの疑問.全く別のビジネスモデルとしてお金を吸い上げる口を用意すべきだったんじゃないだろうか?そこは、音楽会社を持っている会社だからこそ「どこのセンスにお金が付いてしかるべき」をもう少し追及しても良かったのではないか、と思う.
お金ってのは希少な価値に払われるものなのだから、希少な価値として何を位置付けるかは、あの大きな会社なら設計出来たはずなのだ.

ビジネス戦略面から(2)

先ほどの、売りの一点突破をしにくく、総合的に完成度を求められるという意味では、大企業たるソニーの苦しさはよく分かる.Appleがいかにあの当時でもそこそこの大きな会社であったとしても、音楽プレーヤー参入は0からのスタートだったわけで(のちの携帯参入が0だったのと同じく)、既存顧客が少なく期待も少ない中でのスタートというのは、やっぱり楽なものなのだよね.辻野さんの本の中にも書かれていたが、「iTunesが走りながら修正していった」というのは、あの立場だったから許されたものであって、ソニーは同じことをやろうとしても内外からの圧力は高かったろう.もちろん「(ボタンが陥没するのは)仕様です」くらい言えれば、問題ないだろうけど.

じゃあ、どうすれば良かったのか?
正直ここについては分からない(分からないからこそ議論したかった点だ).市場期待の大きさに応えるべく 時間をかけて完璧なものを出すべきかと言うと、そうじゃないだろうということは、自分が働いていて思ったジレンマ.ただ、巨体なのでしょうがなく掛かる「リードタイム」は、どう使うべきなのかは、未だに私には答えが出ていない.
むしろ、周囲の説得を含めたリードタイムを包含するリスクを追うくらいなら、身軽な位置からまっすぐ勝負をかけたいと思ったから今の自分があるわけで.


そういう意味で、トップが2人居たことが問題なだけではないと思った.もちろん、組織論的にやりにくさはあっただろうけれど.

もう一言、アプリソフトについて言うとすれば

どこぞやでコメントされていたが、ウォークマン凋落の原因として、アプリケーションソフトについて言及されていた.

この領域については、私からはしばらく言及できないのが残念なところ.
私は、S社に居た最後の仕事で、(ウォークマンのアプリではないものの)ほぼ同じ開発部隊と関わっていたために、その様子が容易に想像つく状態.改善を望んで取り組んだものの、理由があってそれが不可能になったことは、これも大きな退社の一つの理由となっています.

Conclusion

今回の件については、ちょっと反省している.
ある意味、辻野さんからの返答が滞った時に、「これ以上相手にしてもしょうがないから」とtks900さんがブロックして無視しようという対応に対して、「ブロックせずにやり倒したら?負けないでしょ」と、ある意味煽るようなことを書いてしまったのだよね.ごめんなさいね.(もちろんストレートに本音です.変にブロックしたり削除って、逃げっぽく見られるのもヤだし.元々いつも正々堂々議論する姿勢を持っているtks900さんだと思うので、そういう点はいつも尊敬しております)


その後、tks900さんが 一部のツイートを削除した上で、実名部分は削除するように辻野さんに伝えたのは、きっと私の名前が一緒に出たのも大きかっただろうと想像しています.(私は、辻野さんのtwitterはリストにも入れておらず、それまでの様子はtks900さんのツイートからしか把握していない)

私は元々、ネットのどこでも本名で活動して来ているので、気にする必要は無いのだけど、それを伝えるのが遅れたために、tks900さん側の気遣いに対応することが出来なかったのは後悔.その当時、私は株主総会中だったため、半日以上Twitterを触れておらず.
更に、今回取り上げられた期間は、海外展示会出展のために日本を離れており、これまたリアルタイムの反応が出来ず.なんとも都合の悪いタイミング.


私が「頭パッパラ系」と書いたのは、”上部に書いた”ような内容を考えているとは思えない 役職付きが居る事業部が結構あるなあ、という実感があったから.
もちろん全員がそうではないし、他の会社にはなかなかいないすっごく優秀な役職付きもたくさん居る.ただ、あれだけの大きな会社を動かしているのだから、頭を使ってしかるべきで、そうじゃない人が上に上がってる構図ってどうなのよ、とは思わずに居られない.